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特集「別表の体系を知る(基礎編)」別表五(一)編

   
  特集「別表の体系を知る(基礎編)」別表四編では、毎期毎期の法人の所得金額の計算方法と書き方について話をしました。
  これに対して別表五(一)では、その毎期毎期の期と期を結ぶ連結的な要素と、利益積立金(企業会計における利益剰余金のこと)の把握するため
  の別表となります。
  また、翌期以降の所得計算(別表四)をする場合、過去に生じたその税務上の否認金(別表四での加算保留、減算保留など)の記録しておく備忘記
  録簿としての非常に重要な別表となります。
  ■「別表の体系を知る(基礎編)」別表五(一)の構成
  別表五(一)の役割
    1. 利益積立金を把握する役割
    2. 連結間(備忘記録簿)としての役割
  別表五(一)の書き方
    1. 利益積立金額の計算に関する明細書の構成
    2. 利益積立金額の計算に関する明細書の作成
      1) 株主資本等変動計算書の転記
      2) 別表四の転記
      3) 納税充当金の転記
      4) 未納法人税等の転記
  おわりに
     
   

別表五(一)の役割

   
  先ず、別表五(一)の書き方の前に、別表五(一)の二つの役割についてお話をします。
  1. 利益積立金を把握する役割
    企業会計における利益剰余金のことを税務上では「利益積立金」と言います。
    この「利益積立金」を記載する別表が別表五(一)となります。
    では、具体的に会計処理からどのように別表五(一)へ展開するのか話を進めます。
    ここに、会計処理で取得価格1,000円の資産に対して、300円の減価償却費を費用計上しました。
    ただし、税務上では300円のうち100円は損金として認められないため100円損金不算入となり別表四で加算調整を行いました。
 
    この時、会社の資産計上は1,000円-300円=700円になりますが、税務上の資産は1,000円-200円=800円となり100円の差異が
    生じます。
    この100円の差異を別表五(一)で記しておくことになります。
    では、なぜこの差異の部分の100円を別表五(一)で記しておくことになるのでしょうか。
    会社の会計処理では1,000円-300円=700円で資産計上されて貸借対照表上バランスしてます。
    もし、税務上に貸借対照表があるとすれば(実際は存在しませんので誤解の無いようお願いします)バランスさせるために貸方のどことバランスを
    取るのでしょうか。
 
    「負債」は他人から借入しているところで、加算調整したから借金が増える訳ではありません。
    「資本金または資本剰余金」は株主さんが出資してくれたお金です。
    加算調整したから株主さんから出資した金額が増える訳ではありません。
    では、「利益剰余金」はどうでしょう。
    「利益剰余金」は「課税済利益の留保部分」になります。
    つまり、儲けたお金から税金を払って、配当金を払って、まだ会社に残っているお金(留保しているお金)が「利益剰余金」になります。
    であるなら、100円を別表四で加算調整したということは、利益の中に含(所得金額に含)まれて課税対象としてかつ税金を払って、配当金を
    払って、会社内部に留保することになり、「課税済利益の留保部分」となりますから、「利益剰余金」(税務上利益積立金)の性格そのものとなります。
    よって、この100円は利益積立金にプラスして税務上の利益積立金額の構成要素として、別表五(一)に記載することになります。
    これで、バランスしました。
    ちなみに、この利益積立金は資本金と区別して置くという意味で税務上非常に重要な金額になります。
    なぜなら、合併する、増資する、減資するなど何らかの理由で、株主にお金を返還する場合、利益積立金部分をしっかり把握していただいてこの部分
    を、株主に分配して、その金額は配当金とするため法人税にとって重要な意味のあるもの(利益積立金額)になります。
    そして、この「利益積立金」を把握するのが別表五(一)ということになります。
 
  2. 連結間(備忘記録簿)としての役割
    次に、連結間(備忘記録簿)としての役割について、上記例題の100円の差異がどのように連結していくのかお話をします。
    では、上記例題の資産を翌期に除却した場合はどうなるのでしょうか。
    翌期に会社の経理処理で除却損700円を費用計上します。
    しかし、税務上の簿価は800円となってますので、別表四で調整を行います。
    この時、差異の100円をどこから持ってくるかとなれば「別表五(一)」からとなります。
    「別表五(一)」から持ってきた100円の差異を、翌期は費用計上するため別表四で損金算入(減算調整)を行います。
    結果、会社が計上した700円と損金算入(減算)した100円の合計800円で税務上の簿価と同じになり翌期の費用計上となります。
    このように、「別表五(一)」は、事業年度と事業年度を結ぶ連結間としての役割も担っております。
   

別表五(一)の書き方

     
  別表五(一)の役割は、大きく「利益積立金を把握する役割」、「連結間(備忘記録簿)としての役割」の二つの役割がございました。
  この役割を念頭に置いていただき「別表五(一)の書き方」について話を進めます。
     
  1. 利益積立金額の計算に関する明細書の構成
    期首(前期末)の金額に、当期に生じた増減の項目を加算・減算して、当期分の法人税、住民税を控除して、当期末現在の利益積立金を求めます。
    横列の構成
   
    期首現在利益積立金額
      3月決算の場合、4月1日現在の利益積立金の金額を記載します。
      すなわち、前期の3月末日の別表五(一)の④の欄の金額をそのまま転記します。
    当期利益積立金の「減」
      当期中の利益積立金の減額部分を記載します。
    当期利益積立金の「増」
      当期中の利益積立金の増額部分を記載します。
    差引翌期期首現在利益積立金額
      最終的に①-②+③で期末現在の利益積立金を算出します。
       
    当期の記入は②欄と③欄とになり、「別表五(一)の書き方」で主な話の部分になります。
    では、次に、利益積立金の内訳(区分の内容)についてお話をします。
    縦列の構成
      別表五(一)の利益積立金の構成要素は会社上の利益剰余金の内容、別表四で留保欄に記載された項目(資産・負債の増減に影響する項目)
      、見積税金部分、税金のマイナス部分の四段階で構成されています。
       
   
    1. 株主資本等変動計算書からの転記
      「1」「2」「26」は、「株主資本等変動計算書」から転記します。
    2. 別表四からの転記
      「3」~「25」は、当期の別表四で生じた項目のうち、留保欄に記載された項目(資産・負債の増減に影響する項目)を転記します。
      「別表五(一)の役割」での例題で言えば「減価償却超過額」の100円がここに記載されます。
    3. 納税充当金の転記
      「27」は、期末時点で会計処理した納税充当金設定額を転記します。
      会社会計の損益計算書上でも「課税済利益の留保部分」の利益剰余金を出すために期末に未払(見積)税金を税引前利益からマイナスします
      が、法人税では損益計算上の見積税金では認容できないため、一旦、貸借対照表の利益剰余金に足した上で 実際の「もうけ」けに対する確定
      した税金をマイナスして税務上の利益積立金を算出します。
    4. 未納法人税等の転記(区分番号「28」~「30」)
      「28」~「30」は、前期末では支払っていない金額ですが、前期末の「もうけ」に対する税金のため、この税金部分を除いた金額が「課税済利益
    の留保部分」の利益積立金となります。
  2. 利益積立金額の計算に関する明細書の作成
    別表五(一)の区分(縦列)が下記の四段階で構成されているのはご理解いただけたでしょうか。
    では、下記の四段階で別表五(一)の書き方についてお話をします。
      第一段階:株主資本等変動計算書からの転記
      第二段階:別表四からの転記
      第三段階:納税充当金の転記
      第四段階:未納法人税等の転記
       
    1) 株主資本等変動計算書の転記(区分番号「1」「2」「26」)
      株主資本等変動計算書とは、会社法計算規則127条で定められた計算書です。
      貸借対照表の純資産の部(旧資本の部)の各項目の変動状況を示す計算書類です。
      様式は縦軸に貸借対照表の純資産の部の項目を並べ、横軸に前期末残高、当期変動額、当期末残高を記載する形式となります。
      SuperStream-COREの「株主資本等変動計算書」の利益剰余金部分から「別表五(一)」へ転記します。
      別表五(一)の①欄は前年度の別表五(一)の④から転記しましすが、「株主資本等変動計算書」の前期末残高行と同じになっていると思います。
      注意点は、繰越利益剰余金の欄の当期変動額はプラス項目、マイナス項目が多いため簡便的に当期末残高額をそのまま別表五(一)の当期
      末残高の④へ転記していることです。
       
   
      「株主資本等変動計算書」から転記後の結果を下図の「別表五(一)」と「別表四」への展開をご確認ください。
     
 
    2) 別表四の転記(区分番号「3」~「25」)
      先ず、初めにアドバイスです。
      別表四の作成時に留保欄に記載された項目(資産・負債の増減に影響する項目)があるときは同時に別表五(一)も作成することをお勧めします。
      また、別表四で減算したから別表五(一)の②、加算したから別表五(一)の③という訳ではありませんので注意して下さい。
      別表五(一)の②は「解消の欄」、別表五(一)の③は「発生の欄」と認識して作成されるといいと思います。
      では、上記の「減価償却超過額の100円」の例題でお話をします。
      会計期10期に減価償却超過額の100円を損金不算入となり別表四で加算・留保の調整を行いました。
      この時、減価償却超過額の100円は新しく発生(加算・留保)しましたので別表五(一)の③へ転記します。
      翌期に繰越された減価償却超過額の100円から一部除却で60円分の損金算入の容認を受けて解消(減算・留保)しますので別表五(一)
      の②へ転記します。  (下図の「■発生と解消の例」を参照して下さい)
       
      次に、上記の逆で、仮払税金認定損の例では、会社が税金を払った時に(借方)仮払税金100円(貸方)現金100円の処理をしました。
      ただし、税金を払った時に損金になるため、仮払税金については損金算入で減算調整しなければなりません。
      そこで、減算調整した100円は新しく発生したため別表五(一)の③欄へ転記しますが、③欄はプラスの性質を帯びていますから減算・留保の
      場合△100円とします。
      また、翌期に修正仕訳の(借方)租税公課100円(貸方)仮払税金100円の処理して費用計上しましたが、すでに前期に損金算入しています
      ので、今度は逆に損金不算入の加算調整します。
      つまり、前期減算したものを、翌期に解消したため別表五(一)の②欄へ転記しますが、②欄はマイナスの性質を帯びていますから加算・留保の
      場合△100円と記入します。  (下図の「■発生で減算、解消で加算の例」を参照して下さい)
       
 
    3) 納税充当金の転記(区分番号「27」)
      ①欄 前期別表五(一)区分番号「27」の④の金額をそのまま転記します。
      ②欄 実際に取り崩した(期首現在から解消した)納税充当金の金額を記入します。
      ③欄 別表四に記載されている「損金計上納税充当金」つまり当期における損金計上納税充当金設定額ですが、その金額を転記します。
         
    4) 未納法人税等の転記(区分番号「28」~「30」)
      ①欄 前期別表五(一)区分番号「28~30」」の④の金額をそのまま転記します。
        これは、前期の確定申告分を記入することになります。
      ③欄 中間欄(上段)に当期中間申告分として支払った金額を記入します。
        ③欄は、当期発生の欄ですので、当期中間申告分(利子割を含む)が発生した段階で記入します。
      ②欄 前期の確定申告分と当期中間申告分(利子割を含む)の合計額、つまり①欄と③欄中間の合計額を記入します。
        ②欄は、解消の欄ですので、前期確定申告分及び当期中間申告分ともに、支払義務の発生を解消されます。
      ③欄 当期の確定申告により納付すべき税額を確定欄(下段)に記入します。
        これは実際にその税額を納付するのは当期ではなく、翌期に必ず支払わなければならないものであるため、当期末現在の利益積立金額
        予め控除し、その税額に相当する利益積立金は存在しないものと考えているためです。
      ④欄 結果として③の確定(下段)の金額をそのまま転記します。
         
      下図は未納法人税の記入例です。 未納道府県民税、未納市町村民税も同じ記入方法となります。
   
   
  終わりに
    次回の特集「別表五(二)の書き方」の中で租税公課のお話をします。
    その租税公課の中で繰り返し「未納法人税等」についてお話しさせていただきます。